長期的な関わりを目指して [第2回 地域課題解決編 カラビナテクノロジー株式会社]

レポート

長期的な関わりを目指して [第2回 地域課題解決編 カラビナテクノロジー株式会社]

福岡に本社を置く〈カラビナテクノロジー〉が、3度に渡り八幡平安代地区を訪れ、ワーケーションを行いました。〈カラビナテクノロジー〉は、システム開発、アプリ開発やウェブサイト制作を行う会社。全国に地域拠点があるほか、拠点がない場所で働くメンバーもいるなど、多くがリモートワークを行っています。第2回のテーマは「地域課題解決」。北海道、宮城、東京、福岡から5名のメンバーが安代地区の事業者を訪問し、現状確認、今後の展望など、情報交換を行いました。

老舗麹屋の新たな挑戦

2022年8月にオープンしたばかりの直売店〈SHIMONO528〉

1軒目に訪れたのは1930年創業の〈麹屋もとみや〉。麹、味噌、麹と味噌に関係する加工品を製造・販売する老舗です。一時は「東洋一の硫黄鉱山」とも称された〈松尾鉱山〉が近くにあったことから、そこで暮らす人々がつくる漬物やどぶろくのための米麹の需要が高かったことにルーツがあります。麹屋としてスタートし、2代目が味噌づくりを始めました。創業以来、原料は「国産国消」を大切にしています。

迎えてくれたのは4代目 代表取締役社長の本宮啓さん。製造現場や、隣接する直売店〈SHIMONO528〉を案内してくれました。

「温度変化や湿度で微生物菌の動きは変わるため、味噌を同じ材料・同量で仕込んでも、安代地区で寝かせれば安代地区の味になります。ここは年間の総熱量が低いため熟成に時間がかかりますが、ここでしかできない味で、この味を求めてくれる地域の方に支えられていますので、継続していかなくてはいけないと思っています」と話します。

味噌を2年寝かせている樽の前で味噌づくりの工程を説明してくれる啓さん
味噌を仕込むための大豆を加工する様子

製造現場を見学した後は〈shimono528〉へ。店名は、屋号である「しものこうじや」に由来します。同じエリアに麹屋が2軒あり、〈麹屋もとみや〉は下手にあったためこの名で親しまれていたのだそう。

店内では、オリジナルの「528バーガー」や「Misoy バーガー」や「味噌つけたんぽ」などを注文できます。

「ここでなくては出せないもの、ここにあったらいいなと思うものを提供したい」と、考えられたメニューで、「味噌つけたんぽ」は安代地区で昔から食べられて来た郷土料理、バーガーのふわふわバンズは麹パウダー入りの特製、パテは、「528バーガー」には「いわて短角牛」、「Misoyバーガー」には「大豆ミート」が使用されています。

メニューの特徴をうかがいます
ショップスペースに並ぶ「こうじみそ」

ショップスペースでは、自社の味噌や麹商品以外にも、周辺地域の生産物を紹介。隣接する二戸市〈馬場園芸〉のホワイトアスパラガスやお米「きらほ」などが並びます。

「当社があるのは当社だけの力ではなく、岩手の北の地域の方たちのおかげで成り立っているので、なるべく点ではなく面でアピールしたいと考えています」と啓さんは話します。

〈shimono528〉のメニューは、「地域を楽しんで帰ってもらいたい」という思いからもすべてテイクアウト可能で、購入の際には「景色の良い場所で食べてください」と、ショップの外に雄大な山々を眺めながら食事ができるスペースがあるほか、「不動の滝」や「安比高原牧場」など、周辺スポットの案内もしているのだそう。

八幡平の自然を愛でながら食事ができます(写真は第1回目に「みそソフト」で休憩する様子)

「今後は今の方たちが使いやすい商品を開発することで麹に興味を持っていただく方を増やしていきたい。そしてまた、麹づくりは我々が担いますが、各家庭でお味噌をつくる機会が復活する。そんな景色が見られることが理想です」と啓さんは話します。

昔と変わらず、現在でもお客様からお米を預かり、湿度と温度の高い室(むろ)で醸した後に麹として、また、大豆を預かり数日預かった後に仕込み味噌としてお返しするという事業も行っている同社。昨年夏からは、「若い人にも興味を持ってもらいたい」と、前者を「お米サウナ」、後者を「大豆ホテル」と呼ぶ取り組みも始めました。

自分で仕込む味噌づくりを体験

寝かせる前までの工程を終えた味噌

翌日、再び〈麹屋もとみや〉を訪れた〈カラビナテクノロジー〉のみなさん。実際に麹を使用した味噌づくりにも挑戦しました。

教えてくれるのは啓さんの父で3代目、現・会長の本宮隆一さん。〈麹屋もとみや〉では、体験教室「手前味噌つくり」を約15年前に始めました。

「私の親の代では、親の代では、麹を使って甘酒や味噌、漬物作るのが当たり前でしたが、そうした機会が少なくなってきたなと感じていたのです」と隆一さん。

開始以来約350人の方が学び「自分が作った味噌は何事にも変えがたい旨味がある」とリピーターも多いのだそう。説明付きの初心者コース(3000円)と説明なしのベテランコース(2000円)があります。

「一度やると2回目はベテランで大丈夫。友達を連れて来て先生になっている方もいますからね」と笑います。

「勉強したことが自分のものになって、それが続いていく、ひいては子供たちにもつながっていくのが大事だなと思っています」

会長の本宮隆一さん

体験講座では、まず味噌づくりの基本を勉強。お米が麹の力で分解されてブドウ糖をつくる作用や、ブドウ糖が酵母の力でアルコールと炭酸ガスに分かれる発酵作用や、塩分と水分の関係、お米の中に菌糸をのばすという麹屋の仕事について学びます。

「発酵食品は樽に仕込んでからは外から物理的に何かできることはないんです。温度管理などは必要ですが、“麹くん”に全部頼むしかない。だから強い麹が必要なのです」と隆一さん。

味噌づくりの基本を学びます

座学を終えると、蒸した大豆を潰すところから味噌づくりをスタートしました。ゆっくり粒がなくなるまで手で潰します。力のいる作業でしたが、潰しながら赤味噌と白味噌の違いや地域により異なる麹の種類や割合の話もうかがうなど豆知識を深めるひとときでした。 その後は水、麹を追加して混ぜ、最後に発酵可能な範囲の中で好みの塩分量を加え、樽に仕込んで完了です。後は自宅に戻って重石を乗せ、春になって1度かき混ぜれば1年後には食べることができます。

手ぶらで味噌づくりができる材料と道具が揃っています
蒸し大豆を滑らかになるまで潰します
丁寧にわかりやすく指導してくれます

一度仕込めば、隆一さんや啓さんが理想とするように、また自分で味噌を仕込んでみたくなる、そんなきっかけをくれる体験でした。 選んだ塩分量がそれぞれ異なったことはもちろん、温度の積算により熟成状態が変わる味噌。参加者は北海道、宮城、東京、福岡と違う場所に住んでいるので、1年後にまたこの場所に集合し、食べ比べをするのもおもしろそうです。またひとつ、八幡平を訪れる理由ができました。

■麹屋もとみや(SHIMONO528)

住所:〒028-7541岩手県八幡平市寺志田165-28 
TEL:0195-72-3663
https://kojiyamotomiya.com/

岩手の郷土食「南部せんべい」の専門店へ

せんべいをモチーフにしたマークが282号線を走ると目に入って来ます

〈麹屋もとみや〉に続いて、もう1軒訪れたのは、南部煎餅を製造・販売する〈羽沢製菓〉。八幡平も含む南部地域は、冷たく湿った東寄りの風「やませ」などの影響で稲作が不向きだった地域。古くから小麦粉を原料とする「南部せんべい」がごはんやおやつ代わりとして親しまれてきました。

〈羽沢製菓〉の設立は1965年。この日は継ぐと三代目となる大貴さんが案内をしてくれました。 「南部煎餅と言っても店舗店舗で味の出し方や食感が違います。当社は柔らかめで、甘醤油が特徴。それぞれの良さがあると私は思っています」

醤油胡麻味が一番人気

すべて手作業でつくっているというのも〈羽沢製菓〉の特徴。

「その日の気候によって材料の配合や焼き具合を変えています。お客様においしく食べてもらうのももちろんですが、働く人たちにも楽しさがあるんですよね」と大貴さん。  「伝統としてあるものを、今も食べたいと思ってくれている人たちのために残していきたいと思っています」と話します。

案内をしてくれた羽沢大貴さん

■羽沢製菓

住所:〒028-7535 岩手県八幡平市清水141-5
TEL:0195-72-3020
https://hazawaseika.com/

また、この日、代表は不在でしたが、同地区にある〈安比塗漆器工房〉も訪問。 かつては安比川上流の木を切り、下流で漆器がつくられていた文化があったが一度衰退し、40年前に復興した「安比塗」。1983年に〈安代漆工技術研究センター〉が設立され、多くの塗師を育ててきました。漆の世界では自由度が高いことで知られ、全国からも研修者が集まっています。

冷めにくい漆器は冬が寒い安代地区で愛されてきました
安比塗について丁寧に教えてくれます

■安比塗漆器工房

住所: 〒028-7533 岩手県八幡平市叺田230-1
TEL:0195-63-1065
https://www.appiurushistudio.com/

若手経営者がともに成長する安代地区

各事業者の訪問は、第1回目と同じく「グルチャリ」を利用

第2回目となった今回の滞在には、〈カラビナテクノロジー〉からは、第1回に続きリバーさん、103さん、1010さん、タビーさん、今回初めて名人さんが参加。また、専門家として〈Work Design Lab〉の石川貴志さんも同行しました。

メンバー全員が副業ワーカーで全国様々な地域を訪れているという〈Work Desing Lab。石川さんからは、「地域に入るときに事業者や経営者とつながると関係性が長くなります。様々な地域にご縁ができることで、私自身も豊な関係性をいただいている。会社員をしながら副業している方も増えてきたので、うまく巻き込んでいけたらいいですね」というコメントがありました。

ランチも自転車で移動。写真は〈ぱぱなっしゅ〉の「岩手短角牛ハンバーグセット」。ソースを選ぶことができる。写真はイタリアン

また、夜には今回も〈新安比温泉静流閣〉を会場に懇親会を開催し、〈羽沢製菓〉の大貴さん、〈新安比温泉静流閣〉の若旦那 橋本俊さん、また、八幡平市商工会の滝沢勝美さん、「八幡平ワーケーションウィーク」の滞在先〈安比ロッキーイン〉の代表でもある岩手県産業創生アドバイザーの大滝克美さんが参加し、親交を深めました。

実はタビーさんは今回で八幡平訪問が8回目。個人で「八幡平ワーケーションウィーク」に参加していたことで大滝さんとの関係が深まり、今回〈カラビナテクノロジー〉の企業型ワーケーションの実現につながりました。

話しているのは〈安比ロッキーイン〉の代表 大滝克美さん。

今回訪問した〈麹屋もとみや〉、〈羽沢製菓〉、〈安比塗漆器工房〉、また、第1回でご紹介した〈新安比温泉静流閣〉、〈七時雨山荘〉と、安代地区は30-40代の若き同世代経営者が切磋琢磨していることも特徴。また、それぞれが、自分たちだけではなく、「他にもこんなに頑張っている事業者さんがいますので、どんどん関わってほしい」と他を薦める姿も印象的でした。

今後この地域を牽引してく彼らと、〈カラビナテクノロジー〉のような外からの新しい視点が融合することで活性化していくことが期待されます。 今回の〈カラビナテクノロジー〉滞在はゴールではなく、縁を繋ぎ、来年、再来年と、さらに同僚・友人も巻き込み、通い続けてもらうことが目指す姿。ともに時間を過ごすことで課題を見つけ、長い時間をかけて解決していく。今後の展開が楽しみです。

(※本件は「観光庁ワーケーション推進事業」モデル実証事業です)
PHOTO &TEXT:佐藤春菜

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